牧野 多聞 | KOKUGAKUJIN | 学校法人國學院大學 | 法人サイト

SEARCH

cat = kokugakujin

result = kokugakujin9

newsDetail =

post_type = kokugakujin

is_home
is_single1
is_page

2022年12月20日更新

KOKUGAKUJIN #9

物理の道を選んだきっかけは、小学5年時の理科の実験

Q 子供の頃は、どんなお子さんでしたか?また、どのような夢を持っていましたか?

 最近、父の日記が見つかって、私の事が「何事も良く考えて熱心に取り組むのだけれども、てきぱき答えたり処理したりすることが遅い」と書いてありました。そういう子供だったなと改めて気づかされました。小さな頃からモノ作りが大好きで、空き箱で何かを作ったり、出入りの大工さんのまねをして釘を打ったりして遊んでいました。作り始めると止まらず、船の模型を夜中まで造り続けていたこともあります。父が書いていたように熱中すると時間を忘れるようなところがありました。
 5年生の頃はいたずら好きで先生によく叱られていました。また、その頃に読書に目覚め、熱中しました。放課後に学校の図書室で本を借りて帰り、その日のうちに読み切って翌日返すという毎日でした。1年間で100~150冊位の本を読んだと思います。児童文学、偉人伝や推理小説、動物の物語など、ジャンルを問わず書棚の片っ端から借りて読みました。小さい頃は運動が苦手でしたが、この頃に父に連れられて初めてスキーに行き、そのスピード感と爽快感に魅了され、それ以来、毎年欠かさず滑りに行っています。今年も学生と滑りに行く予定で、スキーは私の生涯スポーツです。スキーのおかげで運動の苦手意識が薄れ、中学ではバレーボール部に入部しました。
 将来の夢など何も考えていないボンヤリした子供でした。ただ小学校5年生の時、理科の先生が演示実験をして、その現象や原因を児童に考えさせ、討論させるという、当時ではかなり先進的な授業をしてくださいました。理屈を考えると答えが導けることにワクワクして、先生にこれは何の勉強かと尋ねたところ物理だと教えられ、この面白い物理をもっとやりたいと思ったのが、私が物理の道を選んだきっかけになりました。
 振り返ってみると、小学校5年生の時が私の人生のターニングポイントであるようです。

Q 大学生時代は、どんな学生生活を送りましたか?

 私は初等科から学習院だったのですが、大学は迷わず理学部物理学科に入学しました。しかし物理に進むことは実現したのですが、何の研究をしたいのかを全く考えていませんでした。そんなわけで、4年生での研究室選びは一番居心地の良さそうな研究室を選びました。
 その研究室のまま大学院に進み、岩塩の劈開面を利用した「デコレーション法による相対する劈開面の観察」を研究テーマにしました。岩塩の結晶を割る(劈開する)と、その面は原子サイズで平らな表面になります。その表面での金の原子の並び方を、劈開した両面で比較観察することで、物質表面を調べる研究です。電子顕微鏡の最大倍率での観察は、暗闇に慣れた目で真っ暗な中で行わないと見えないので、電子顕微鏡観察はいつも深夜でした。
 実験の準備から実験、その観察に約1週間。これを10回ほど繰り返してデータを取り、再現性を確認します。観察は深夜ですから泊まり込みですし、実験の準備のためにも研究室に寝泊まりして装置を調整します。これを仲間内では「実験装置のお守り」と呼んでいました。実験は手間がかかりますが、私は物理学の研究より実験で何かを発見することの方に興味があり、泊まり込みの実験は楽しい仕事でした。装置のお守りの合間には、理学部の仲間たちと校舎前の広場でテニスをしたり、冬には連れ立ってスキーに行ったりと仲間意識も強かったと思います。
 実験装置は理学部にある工場で自作しました。工場の職人さんにアドバイスをもらいながら図面を引いて、工作機械で成形して、完成まで半年以上かかりました。やはり私はモノ作りが好きなのでしょう。これが大学院生活で一番印象深く、楽しい時間でした。

Q 牧野先生が現在取り組んでいること、これからチャレンジしてみたいことは何ですか? 

 國學院女子短期大学(現在の短期大学部)が開学する時に声をかけていただき、北海道に来ました。開学時からの勤務は貴重な経験であり、楽しい体験をさせていただいたと思っています。出来立てのまっさらな学校で一から始めることは、実験装置を作り上げるのと似た楽しさがありました。情報処理室の設計もいろいろ工夫をして達成感がありました。
 現在は「科学の歴史」、「自然界のしくみ」といった自然科学系の科目とIT関係の科目も持っています。文系の学生たちが興味を引かれるような自然界の身近な現象や事例を取り上げて、自然科学のイメージを伝える授業作りを心がけてきました。
 そのため、学生だけでなく、色々な世代の人たちにも、その人たちに合わせた、自然科学に興味を持ってもらえる授業が展開できると思っています。実はそろそろ定年を迎えるのですが、これからは学校以外の人たちに、身近な自然科学を伝えることが出来ないかと考えているところです。

Q 牧野先生が大切にしている信条は?

 しっかりと見ること。すなわち観察です。見ることは経験になり新しい知識につながります。例えば授業で自転車を描かせると、ほとんどの学生の絵は変な自転車になります。チェーンが前輪につながっていたり、前輪のフォークが垂直に立ち上がっていたり、走りそうにありません。でも、ハンドルの前の買い物かごは、よく見ているのでしょう、詳細に描いてあります。暮らしの中に普通にある物事を「あたりまえ」として、見ているようで見ていないからです。しっかり見ると、次に「なぜ?」という素朴な疑問が生まれます。スポークの微妙な曲線の形状や取り付け角度に気付くと、手放し運転ができる理由につながっていきます。自然科学に限らず、まずは何事もしっかと見て、なぜかと問うことが大切だと思っています。

Q 牧野先生が考える國學院らしさ(KOKUGAKUJIN)とは?

 國學院大學北海道短期大学部の学生たちは、北海道出身の学生はおおらかで優しい、関東から来た学生は親元を離れて、それぞれに覚悟を持っていると感じます。國學院全体で考えると日本文化と伝統をとても大切にしている学校だと思います。國學院大學には貴重な文献や重要な資料が沢山あるだけでなく、図書館も博物館もそれらをしまい込まずに、誰の目にも届くところに置いて、普通に使えるという環境を作っている。これはすばらしい國學院らしさではないでしょうか。

牧野 多聞

國學院大學北海道短期大学部 教授

東京都出身
学習院大学大学院自然科学研究科修士課程物理学専攻 修了
1982年4月より國學院女子短期大学(現國學院大學北海道短期大学部)に専任講師として着任し、1997年に教授。現在に至る。

up