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2021年10月5日更新

KOKUGAKUJIN #1

数学が好きで理系志望だった私を変えた「源氏物語」との出会い

Q 子供の頃は、どんなお子さんでしたか?また、どのような夢を持っていましたか?

 江東区の亀戸で生まれた下町育ちです。今は見かけなくなりましたが、私どもの子供の頃は貸本屋さんがありました。マンガ、雑誌、文庫本など、様々な本が置いてあって、毎週、貸本屋さんに行っては、色々なジャンルの本を借りて読んでいました。とくに「十五少年漂流記」などの冒険物語などが好きでしたね。本の世界に入って作中人物に自分をなぞらえて、現実とは違う世界に遊ぶことがとても楽しかった。その頃は貸本屋さんになりたいと思っていました。
 中学、高校時代は吹奏楽部でトランペットを吹いていました。音楽を聴いたり演奏したりもしましたが、音楽の文法である楽典を調べたり、吹奏楽用の楽譜とオーケストラ用の楽譜を比較したりすることも好きでしたね。高校3年の時には指揮者もやっていたんですよ。
 勉強の方は数学が好きだったので、高校では理系クラスにいました。源氏物語との出会いは3年生の古典の授業です。先生が授業で教科書ではなく、玉上琢彌『源氏物語評釈』を使ったんです。作中人物がそれぞれの言葉遣いで表現されていて、そこから生き生きとした個性を感じ取ることができました。受験向けではない、古典を楽しむための授業が源氏物語をもっと知りたいと思ったきっかけです。そして、進路を決める際には、担任の先生から源氏物語を学びたいなら國學院大學が良いと助言を受けて、國學院大學文学部へ進学しました。また、当時は学園紛争の時代でしたから、経済的な利益を得るために積極的に社会に関わることに対して疑問視する風潮がありました。源氏物語は、そういう世界とは遠いところにあると思ったことも國學院大學文学部へ進学した理由です。

Q 大学生時代は、どんな学生生活を送りましたか?

 源氏物語を読みたいという思いで入学しましたから、部やサークルの新入生勧誘の場では、迷うことなく文科系の学術サークル「源氏物語研究会」に入会しました。指導教授のほかに助手の方も所属している研究会で、大学院生もたくさん所属していました。源氏物語が配架されている図書館の閲覧室で先輩方に出くわすと、資料の探し方や、その資料の意義まで丁寧に教えてくれました。先輩方から研究の基礎を教わったと言っても過言ではありません。この研究会は現在まで60年程続いていて、今は私が顧問をしています。当時は授業よりも源氏物語研究会の勉強の方に熱心でしたね。
 読むだけなく、研究会の先輩に誘われて行った春日大社の若宮おん祭がきっかけで、神事芸能や寺社巡りなどにも興味を持つようになりました。机上の研究だけではなく、文学の舞台になった現地に行って現実と虚構を重ね合わせるような実感実証の大切さに気付いたのだと思います。実は今でもそれは続けるようにしています。
 学部卒業時には先輩方のように研究を続けていきたい思いが強くなって大学院への進学を決めました。きっと、源氏物語に真剣に取り組む先輩方の姿を間近で見ていた影響が大きかったからだと思います。

伝寂蓮筆『源氏物語』若紫巻断簡(鎌倉時代写)

Q 針本学長にとって源氏物語の魅力は何ですか?

 源氏物語は千年以上研究されていて、江戸時代の国学者を含めて優れた研究者がたくさん出ています。現在でも年間約500本の研究論文が出されているのですが、分かっていることが一つも無いくらい興味深い作品です。同じ言葉であっても場面ごとに意味や解釈が異なります。研究が進めば進むほど新たな解釈が生まれてきて、分かっていたことがやはり分かっていなかった。この繰り返しです。そこが源氏物語を研究し続けている理由であり、魅力だと思っています。
 古典文学の魅力もご紹介すると、恋愛という言葉は明治時代の翻訳表現ですが、「こい」という言葉は万葉集にも出てきます。今の「恋」という字のほかに、孤独で悲しいと書く「孤悲」という表現もあります。これは、いつも傍にいた人が居なくなって初めてその存在の重さに気づくと言う意味です。この「孤悲」は、現在の私たちでも共感できる感覚だと思います。源氏物語をはじめ古典文学を研究することは、今を生きている自分の心のあり方を古典の言葉を通して実感することでもあります。源氏物語は、そんな言葉の宝庫なんです。

Q 針本学長が現在取り組んでいること、これからチャレンジしてみたいことはありますか?

 今、誰も手を付けていないような作品の研究にもチャレンジしています。1600年代初期に書かれた「さくらの姫君」という絵入りの冊子が國學院大學に所蔵されています。この作品は他に関西の寺院にあるものと一片の紙に書かれたものしか現物が発見されていません。これがどのような作品か、文中にどうやって句読点を打つのかも分かっていません。ほとんど研究されたことのない「さくらの姫君」に対して、自分の拙い力で挑み、作品の優れたところや本性を解き明かしたいと思っています。もう一つ、40年以上共に仕事をしてきた研究者二人と一緒に源氏物語全巻の現代語訳を進めています。

Q 針本学長が大切にしている信条は?

 大学院時代、「すべての人間は、生まれつき、知ることを欲する」というアリストテレスの言葉に出会いました。それまで本に書かれていることは正しいと思っていましたが、この言葉と出会い、なぜこう書かれているのか、本当なのか、と今の知識を疑うようになりました。私は「問い直す」という言葉を多く使いますが、知の探究には既存の知を疑い再構築する姿勢が必要だと思っています。再構築するには、知識だけでなく実感や体験も大切です。

Q 針本学長が考える國學院らしさ(KOKUGAKUJIN)とは?

 大学生時代の話で触れましたが、勉強はもちろん、お酒の飲み方など、先輩方から様々なことを教わりました。このことは、実体験として、実感として、深く身に付いています。私の時代に限らず、今の学生たちも先輩や友だちに学びながら学生生活を送っています。この人間同士の繋がりの深さ、強さが國學院らしさではないでしょうか。この絆を大切にしているからこそ、学生たちは國學院大學に集う仲間と共に成長していくのだと思っています。

針本 正行

國學院大學 学長

東京都出身
國學院大學文学部卒業
1996年4月より國學院大學文学部助教授として着任し、2000年に教授。2009年から2013年まで文学部長を務め、2019年4月に学長に就任。現在に至る。

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