人間開発学部:「Weekly通信」2023.9.13
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8/14〜19 青柳助手 スイス:IOCオリンピック研究センターでの研究活動報告
健康体育学科の青柳秀幸先生は、この夏、本学の国際交流補助を受けてスイス・ローザンヌにて研究活動を行われました。この報告が届きましたのでお届けします。
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オリンピックは、理念がある〈ムーブメント〉
私は4月に着任し、本学部助手と地域ヘルスプロモーションセンター運営委員を兼任しています。さらに、出身大学の大学院での研究を継続しています。研究対象は、オリンピックの理念の普及活動や、オリンピック教育の歴史です。
みなさんは、〈オリンピック〉と聞いて何を思い浮かべますか? 実は、オリンピックの目的は、4年に1度、競技大会を開催することではありません。オリンピックは大会の開催を遥かに超えた〈ムーブメント〉で、その目的は、オリンピックの理念である〈オリンピズム(オリンピック精神)〉に則って、「スポーツを通じて若者を教育することにより、平和でより良い世界の構築に貢献すること」(※1)です。例えば今日では、オリンピックやスポーツをツールに、オリンピックの価値を人々の日常へ繋ぎ合わせていくような教育活動が展開されています。そこでは、スポーツに限らず人生においてベストを尽くす・追求する姿勢(Excellence)や、人種や肌の色、性的指向や言語などのあらゆるちがいを超えた友情(Friendship)、敬意・尊重(Respect)などの価値が取り上げられています。私は、こうした教育活動や人間形成に関する考えが含まれたオリンピックの理念が、1964年に東京都で開催された第18回大会の際に、どのような内容・方法で人々に伝えられようとしたのかを探求しています。そのため、ムーブメントを主導する国際オリンピック委員会(IOC)が所在するスイスを訪ねました。
(※1)オリンピック・ムーブメントの活動内容や、IOCの使命・役割などが示された『オリンピック憲章』を検索・確認してみてください。
歓びが勝った訪問初日
今回の1番の目的は、IOCが保有する施設、オリンピック研究センター(IOC Olympic Studies Centre)の訪問でした。センターは、ローザンヌ駅から徒歩約10分の場所にあり、オリンピックミュージアムと併設されています。恒久的にオリンピックに関するあらゆるテーマの情報収集・公開が行われており、世界中の研究者やムーブメントに参画するスタッフなどが集います。刊行物のみならず、膨大な史・資料(書簡、議事録、新聞、パンフレット、音声・映像など)が緻密に収蔵されています。
IOCオリンピック研究センターの外観(センターの向こうには、レマン湖が広がっている)
初日は、滞在期間中で最も重要な研究成果の発表と、それを踏まえた情報・意見交換がありました。ホテルを発つまでの資料準備やプリンタートラブル(こういう時に限って起こるのです..)を乗り越え、まともに息をつく間もなく本番に挑みましたが、思っていたより緊張はしませんでした。今振り返れば、緊張よりも、歴代の世界中の研究者やロールモデルの先生・先輩方が訪ねた場所に、ついに自分が足を運べた〈歓び〉の方が大きかったことに気づかされました。また、事前に研究内容や閲覧希望史・資料群を報告・相談していましたが、それを快く受け入れてくれたスタッフの方々との初対面・交流が、私を癒してくれていたのだと思います。スタッフの方々は、惜しみない情報・意見提供をしてくださいました。私が発するキーワードに深く頷いてくれたり、ハッとした表情で、それなら「○○○」という人物のファイルがある、「△△△」のライブラリや刊行物があると助言してくださいました。史料が手元に届くまでセンターのガイダンスを担ってくれたのは、私と同じように仕事と学業を併行している青年の方で、互いの在り方と出会いに共感を得られました。
研究成果の発表と情報・意見交換の様子(右端が筆者)
史・資料に向き合う日々
今、この報告文を読んでくださっているみなさんは、古い史・資料を手に取ったり、どこかの施設で出納依頼したことはありますか? 私は手元に史料が届いたり、一つひとつの箱や包みを開ける時、重みのあるページをめくる時に、楽しみとドキドキの感情が湧きます。ぜひ、まだ手に取ったことがない方は一度トライして欲しいです。素材や香りも異なっていろいろな発見があるはずです。
さて、滞在期間中は、専用のデスクが与えられます。今回は、そこにスタッフさんが史料を運んでくださいました。私が閲覧したかった主な史料は、日本側の組織がIOCや海外の人々へ向けて発行したとされる、とある印刷物でした。また、それに関する史料(日本からの配架依頼文書など)を発掘できたらと考えていました。幸いなことに、滞在初日にはその手がかりを見つけることができました。日本でどれだけ探しても、実際に発行された現物は見つかりませんでした。もしかしたら、計画だけなされ、実際には発行・配布されなかった可能性も予想していました。しかし、確かにその印刷物は、海を超えて海外に届いていたのです。落ち着いて読み込む時間は殆どありませんでしたが、関心事と関連する文章、写真などが見つかった際には、嬉しい感情や達成感を得られました。そして、それと同時に、貴重な史料を収集、保存、公開してくだっさた方々への感謝の気持ちが湧きました。研究は、一人でできるものではないと改めて気づかされます。喜びも束の間、滞在期間は限られているため、とにかく関連しそうな史料を撮影しました。昔は撮影できず、ひたすらコピー機と向き合う時代があったようです。私もコピー機と向き合い続けた経験がありますが、それとは比にならないでしょう。手軽に史料を閲覧・収集できるようになった今、私たちにはそれ相応に全うすべきことがあると使命感のような感情を抱きました。史・資料収集の様子
予備日を捧げた貴重な収集時間と仲間との再会、そして、新たな出会い
センターの開館時間は、とにかく史料収集・発掘に明け暮れました。フライトスケジュールや体調を考慮して予備日を設けていましたが、そこも研究に充てました。想像以上に膨大な史料数に驚く暇もないまま収集を続け、気づけば撮影総数は2500枚を超えていましたが、それでも収集し切れなかった史料は山積しています。しかし、今手元にある史料は、私に学びを与え、鍛えてくれるに違いありません。今回得た史料や経験をどのように扱えるか、また、読み解く・進めることができるか迷いかけた瞬間もありました。しかし、そのタイミングで連絡をくれたのが、IOC本部に勤務している仲間です。オランダ出身の彼とは、2017年にギリシャ(オリンピア)にある国際オリンピックアカデミーにおいて、共に数週間過ごした仲です。IOC本部に招いてツアーを開いてくれたほか、本部の設置・移転経緯やIOCのスタンスなどについて真摯に説明してくれました。彼は拙い英語(単語を単に羅列するレベル..)で乗り切っていた当時の私をよく知る人物ですが、その時も、今回も、英語力のみならず人としての成長に関して私を引き上げてくれました。互いがスポーツやオリンピック・ムーブメントに触れる、携わることになったきかっけや、今の関心事やキャリアについて英語で会話した食事の時間は宝物です。
今回の一連の研究活動では、新たな出会いもありました。羽田空港でのチェックイン時に目の前に並んでいた、カナダのオリンピック・シンボルが付いたシャツを着ていた男性(世界水泳@福岡でコーチを務めたそうです)。10時間以上のフライトで疲れた際に、機内後方で私と同じようにストレッチしていたウクライナ出身のバレエダンサーのカップル。夜のラウンジで出会った、中国出身の同年代:男性フルート演奏者。IOCの仲間が紹介してくれた、国際的なオリンピック教育プログラム(Olympic Values Education Programme)開発スタッフ。そして、帰路の機内で隣の座席だったイタリア出身のカップル(帰国数日後に、奇跡的に予定が合い京都で再会。市場では見つからなかったというゲームボーイカラーを届けました)などです。出会いや会話のきっかけは全て、挨拶やスポーツ、オリンピックでした。これらが人と人との架け橋になることを再確認できた実体験でした。(左)オリンピック・シンボルをイメージしたIOC本部の構造
(右)再会の記念撮影(近代オリンピックの創始者であるピエール・ド・クーベルタン氏の銅像と共に)
おわりに
センターでの研究後、日が沈むまでの数時間は、旧IOC本部(2か所)やクーベルタンのお墓、オリンピック・ミュージアムなどを訪ねました。すべて、尊敬する恩師や先輩が紹介してくださった場所です。目的地までの道のりで考えたのは、当時その場所で生きていた人々、そして、そこを訪ねた人々が、何を考え、何に思いを馳せていたのかについてです。「もしかしたら、あんなことを、もしかしたら私と似通ったことを、この芝を歩きながら考えていたのかもしれない」。そんなことを考えたり夢想しながら私も歩きました。そして、そこで私は再び考えさせられました。「私は、確かにここで起きていた事象=歴史を、どのような視点で現代から捉え、考え、描き出すのか。そして、どこへ繋げて行動に移すのか」。この問いにオリンピックの理念が関わることは間違いありませんが、より一層、自身の研究や諸活動に向き合う必要性を自覚しました。
まだまだ省察・反省が必要ですが、今回の研究活動における経験は日が経つにつれて深みを増していくと確信しています。私は、得た経験と史料とを合わせて、更なる成果をあげられるよう一歩ずつ進み続けてみます。必ずしもオリンピックやスポーツが万能とは言い切れませんが、批判的な検討も行って正しく理解・実践することができれば、より良い生き方や望まれる社会の実現に有効活用できると信じるからです。
今回を含めたこれまでの私の経験を、失敗談も含めて学生のみなさんへ還元できたらと思います。そして、共に学び続けたいと思います。それらの実践が、私を支え、背中を押してくださった方々への恩返しにも繋がると考えるからです。
人生のターニングポイントになる貴重な海外出張の機会をくださった本学に、心よりお礼申し上げます。
特に学生のみなさん、キャンパスですれ違った際などは、ぜひお気軽にお声がけください。たまプラーザキャンパス3号館にある助手・研究室でもお待ちしています! ※現在、地域ヘルスプロモーションセンターでは、10/15(日)開催のスポーツフェスティバルをサポートしてくださる学生さんを大募集中です。メンバーとしての加入・見学もぜひご検討ください!